お題短文「1.お前のためじゃない」 (ジョシュシベ)
↑こちらのお題サイトさんからお題を借りました。
ツンデレな彼のセリフ
の
「1.お前のためじゃない」
です。ジョシュシベ。エロなし短文。
1.お前のためじゃない
キン、キン。
厚めのガラスのグラスの底に氷が当たる音がしてジョシュアは目を覚ました。
うっすらと目をあけて日当たりが悪いのかカーテンを開けているにも関わらず少し暗い天井を眺めて、ここが自分の部屋ではないことを思い出す。
キン。
身体は動かさず目線だけその音の方向に向けてみると、軽食くらいなら作れそうな簡易キッチンの台で湯気を立てる小さい電気湯沸かし器の横に何か袋を置いてごそごそしているシベリンの背中が見える。長身には似つかわしくない低めの台の為背を丸めて、するりと重力に従った赤毛が視界の邪魔をするのか鬱陶しそうにかきあげて。
何かの袋の裏面の説明を読んでいるらしく、ぶつぶつとなにか言いながら髪の結目の少し下を掻いてみたり、すらっとした腰に手を当ててみたり、足がかゆいのか雑に反対の足でがしがしと擦るようにしている姿をジョシュアはじっと観察する。
自分が見るシベリンは大体寝ているか、寄ってくるなとぶすっとしているか、泣いているか、こちらの顔色を伺って黙ってしまっているか。
おおよそ恋人とは思えないような態度ばかりで、こうして普通に動いているところを見るのは珍しいことで。
茶色の小袋に小さいスプーンを突っ込んでは首をかしげる様子にそれが紅茶の袋なのだとなんとなく察する。
酷く殺風景なシベリンの部屋には茶器などなく、お茶と言うとマグカップにティーバッグがそのまま突っ込んである紅茶がよく出てくる。はずだが。
ーーいつのまにあんなの買ったのかな?ーー
危なっかしくカチャカチャ音を立てるそれはどうやらティーポットのようで。
「あちち」
ピキピキ、パチ。
と氷に熱いものを注いだ時特有のヒビのはいる音が心地よく耳に届く。
視界が染みて滲むような感覚に、目が疲れているのかと目を閉じてその音を聞いているとジョシュアの方へ足音が近づいてきた。
ジョシュアが起きているとは知らないシベリンは目を閉じているだけの彼を寝ていると思ったのかふうと一息ついた。
暗い瞼の裏が更に暗くなったことでシベリンが上から自分を覗き込んでいるのだとわかったが知らぬふりをして。
「起きろよ、…紅茶入れたぞ」
「なぁ…」
「ジョシュア」
何度か呼び掛けられても黙って無視していると、きしりとベッドが軋んで。
一足先にアイスティーの味見でもしたのかひんやりとしているシベリンの唇が額に触れるのを感じて。鼻先に香る紅茶の香りに黙っては居られなくなって。
「冷たい」
一瞬で離れて背を向けたシベリンに緩慢に瞳を開いたジョシュアが声をかけるとびっくりしたのか弾かれたようにこちらを向く。
紅い死神はジョシュアの前ではそのなりを潜めているのかそれではいられないのか、狸寝入りにも気が付かないくらい気が緩んでいるのか。心底驚いた表情に笑が零れる。
「紅茶入れてくれたの?」
自分から触れたことがバレたのが気まずいのか目をそらすシベリンに優しく聞くと、ん、とガラスのグラスを渡される。
「茶葉、買ってきてくれたんだ。」
初めてにしてはまぁまぁな、すっきりとした味にジョシュアが微笑むとシベリンがボソリと「お前のためじゃない…」とぼやく。
「素直じゃないなぁ」
「早く飲んで寝ろよ…熱あんだろ」
言われて自分が風邪で寝込んでいたことを思い出す。疲れ目などではなくそういえば熱があるのか。と合点がいって、自覚した途端に怠くなる身体に苦笑いがこみ上げる。
「…何笑ってんだよ」
グラスを手渡してすぐ簡易キッチンの方まで距離を取ってしまったシベリンが不機嫌そうに眉根を寄せる。
「しんどくて笑えてきちゃった」
素直に心中を口に出すとむっとしている顔をしていたはずの彼は傾きかけたグラスをいつの間にかそばに来てジョシュアの手から取って。
一見無表情だが切れ長の目尻が下がってどことなくしゅんとした表情にジョシュアの口の端が少し上がって。
「なにそれ、誘ってる?」
「…は?」
何言ってんだ。と怒ったような口調と裏腹に額に再度感じた唇は優しくて柔らかくて。
「早く元気になってくれないと寂しくて死ぬって言ってくれてもいいけど?」
「…早く寝ろよ…」
「ふふ」
ため息を付きながら灰色の髪を撫で付けてくる長い指の優しい感触に、ジョシュアは眠りの世界に誘われてやることにした。
***
お題は後
2.気安く触るな
3.勘違いするなよ
4.関係ないだろ
5.気にしてなんかいない
3.勘違いするなよ
4.関係ないだろ
5.気にしてなんかいない
4つ残ってる。じわじわ消費するぜー。