さびのらいhuのーと

未定暫定腐ってる感じの何かご用心

ここへ漂着された方へ。
こちらはSavi(さび)によるMMORPGTW(テイルズウィーバー)腐二次創作を中心としたブログです。
イラストや小説のみご覧になりたい場合はページのどこかにある「カテゴリ」から選んで、CP表記に注意して自己責任でどうぞ。

お題短文「5.気にしてなんかいない」(ジョシュシベ)

確かに恋だった

 ↑こちらのお題サイトさんからお題を借りました。

ツンデレな彼のセリフ

5.気にしてなんかいない

です。
 
ジョシュシベ短文。
 

 

 

5.気にしてなんかいない

 

 

 

 

 


夕食の後なんとなく街に出たものの思わぬ夕立に駆け込んだ喫茶店で慌てて頼んだアイスコーヒー。
添えられていたミルクを高めの位置からぽつりぽつりと落とすと水溜まりに雨粒が落ちたように波紋が広がり白く滲んでゆく。
ひとくち含めばほんのり苦くて、不眠気味なのにコーヒー飲むの?やめておきなよ。と笑うあいつの顔が過ぎる。
そういえば久しぶりに飲むなとシベリンがまじまじとグラスを覗き込んで。
独りでこうして何かを飲むのも久しぶりだ。
黙って出てきてしまって、あいつは怒っているだろうか。

食堂から寮へそのまま自分の部屋へ帰れば当然のようにあいつが来て、当然のようにあいつの部屋へ連れていかれて。
その流れになんとなく逆らいたくて出てきたものの気分は落ち着かずそわそわとストローを弄る。

これじゃまるであいつから逃げたみたいだし怒られるのが怖いみたいじゃないか。
自分で自分にむっとする。
ガラス窓の向こうにはまだ降り止まない雨が街のレンガ敷きの道を濡らしている。
あんな自分勝手な奴、気にしてやらなくていい。
この雨の中俺を探していたらどうしよう。
俺がいない事にそもそも、気付いてないかもな。
勝手に出掛けたことを責められるかもしれない。
落ち着くどころか緩急混じりに波立つ思考に首を振る。
あいつの事なんか気にしたくないのに。
いつもいつもそばに居るからまるで今一人でいる事が何かとても間違っているように思えて、そんな自分の思考が気に入らない。
せいせいするはずだったのに、そうなるどころか。
席についてずっと、考えるのはあいつの事。
気にしてなんかいない。認めたくなくて。

半分程飲んでしまう頃には考えすぎた頭が悲鳴を上げてシベリンはふう、と溜息をつく。
ぼんやりした脳裏に笑うあいつの顔が浮かんで、ピカピカに磨かれたグラスに映る自分の切れ長の瞳が思わぬ程寂しげで、こんな感情は知らない。
知りたくもない。きり、と唇を噛むと席を立った。

雨は止むどころか勢いを増し、喫茶店でメンタルが散々上がったり下がったりして疲れきったシベリンは傘も買わずに雨音激しい街並みをゆっくりと歩く。
色違いのレンガが交互に敷き詰められた足元を、交互に出る靴のつま先と同時になんとなく眺めているうちに歩みが止まる。視界に入った水溜まりは休みなく打ちつける雨粒で揺らいでいて。
そんな役に立たない鏡のように歪んで自分を映していた水溜まりに真っ白な傘が入り込む。

「こんなところに居たの」

シベリンよりも少しだけ背の低い彼のさす白い傘から悠然と笑む口元だけが見える。
欲求に抗えず傘に手を掛けて少し傾けると、それを知っていたかのように出てきた長い指が濡れたシベリンの後れ毛を掴んでぐい、と寄せるように引いてきた。
風邪ひいたらどうするの?と軽く咎めるような目線を向けてくる彼の腕に思わず指を絡めてしまいたい気持ちと、どこか自分の気持ちを見透かして笑っているようにも見える彼から恥ずかしさに逃れたい気持ちと。
ごちゃごちゃする心の中を吐露も整頓も出来ずに黙り込んでいるシベリンを彼ージョシュアはじっと見つめる。

ーー自分から離れたくせに。置いて行かれたような顔して。オレがいないと駄目なくせにこういうこと、ちょくちょくやるよね。
「…っ」
傘の影に隠れてほんのすこし血の滲んでいた唇を舐めつけてやると染みたのかシベリンが顔を歪める。
ーー認めてしまえば楽になるのに、こういう素直じゃないところも面白くていいけど。
「ふ、ひどい顔」
お前のせいだと言いたげに不満そうに目を細めるシベリンに、ジョシュアはほら持って。と白い傘を渡して。
「雨の散歩も悪くないけど、戻ろうか」
返事を聞かず降りしきる雨を気にもせず一歩踏み出すと傘を持ったシベリンが慌てて濡れないように追ってくる気配を感じて。ジョシュアは振り向かず笑った。