さびのらいhuのーと

未定暫定腐ってる感じの何かご用心

ここへ漂着された方へ。
こちらはSavi(さび)によるMMORPGTW(テイルズウィーバー)腐二次創作を中心としたブログです。
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さしずめ紅い、お星さま④

ジョシュシべ・腐(R18)

 








――I'm falling down――




廊下の床板がわずかに軋む音にジョシュアはドアの方向に視線を寄越す。



間を置かずノックが一回だけ。

「開いてるよ」

珍しく1週間ほど雇われて出掛け学院を不在にしていたシベリンが今夜帰って来るのは把握済みで。

呼びかけに答えて入っては来ず、ズル…と布の擦れる音がしてジョシュアがドアを開けてやると大荷物を持った(正確には荷物の入った麻袋は床に一部底を付け、引きずられていたのだが)シベリンが立っていた。この数か月毎回見ていたドアの前で渋々うつむいていたシベリンとは違い、ほんの一瞬だったが明らかにジョシュアを目にして「ほっ」とした顔をした。ジョシュアはその小さな違いに気を良くしたが、顔には出さない。

「どうしたの、入って」

ドアを開けてやっても入ってこないシベリンは汗ばんだ額を軽く手の甲で拭ってゆるく頭を振った。
「いや…いい…汚れてるし…」
「じゃあ、何のためにきたの?」

どう考えても帰ってきたそのままの格好で、自分の部屋にも寄らず。ジョシュアはもちろん何のためにきたのかわかっているが、シベリンについては優しく推し量り察してやる「方針」ではない。

全部――全部自分の口から言わなきゃだめだよ。その時その時の貴方の表情をひとつも逃さず見たいからーー。
シベリンの口は何かを言おうとして開いたまま閉じない。荷物のベルトを持つ手に力が入っている。今すぐ背を向けて帰りたい衝動と、そうではないーーそれに反する衝動が脳内でせめぎあってるのだろう。
「ね、なんできたの」
埃っぽく乾燥しているように見える少しほどけて前に垂れてきている赤毛を一筋つまんで下から覗きこむ。

長らく自分さえも偽って完璧にシベリンだった目の前の年上の男は、正直になにか思った事を口に出す事について罪悪感すら感じるようだ。怒りたい時に静かな顔をして、泣きたい時に笑って、そうしてずっと偽ってやってきたのだ。
ジョシュアが春からこの初夏までに見る事の出来たシベリンの素直だった所と言えば、さっきの「ほっ」とした一瞬の顔と、近頃ジョシュアの部屋に居るときにソファーに「そこそこ深く座る」ようになったところくらいだろう。

「―――居るか…確めに…」
外は暑かったのか、慌てて帰ってきたのか。シベリンのこめかみから頬に汗が一筋伝っていく。きわめて遠回しな言い分だし、忙しなく視点を変える金の眼を合わせてこないのがいまいちだが、耳の周りが恥ずかしさからかあかくなっているし、及第点とすることにした。

「洗ってあげる、入りなよ」
シベリンはうぐ、と音声が出ているような困った顔をしたが、ジョシュアがなにか言い出すともうそうなるしか選択肢がないのだと身をもって学習してしまっているからか拒まず部屋の中に入り込んできた。
この辺は――素直になった――と言うよりもオレの懐柔の賜物だな。ドアを閉めながら薄く笑った。






「…っあ、あ…」
流しっぱなしの水音に混じってシベリンの掠れた声がシャワールームに響く、洗ってあげる、の文字通りジョシュアはシベリンの身体の汚れを泡でかき混ぜ拭っていたわけだが。ジョシュアの撫でるようなさわりかたがどうにも堪えられず身を捩ってしまう。声を噛み殺すとすぐに気付かれ、余計に声があがるように仕向けられてしまうので悔しいが諦めて最初から抑えない事にしたのはいつだったか。

「…は…っあ」
ゆるく開いたままの口の中から真っ赤な舌がちらちら見えて、飲めずに溜まった唾液がたまに顎に伝い糸をひいて光る。
「どこもすごく敏感」

ぜんぶぬいでふらつきながらなんとか立ったままのシベリンの足元で、膝をつき服を着たままシャワーにうたれて半身濡れたジョシュアがシベリンのゆるく反応している昂りを手に取り歯に衣着せぬ感想を述べた。
防水の少し弾力のある壁に震える手をついてシベリンは眠そうにぼうっとした顔で、見上げてくるジョシュアと自覚なく目を合わせている。

ぺろりとそのまま泡のついた膝を舐めてやると、あ、と声がでる。
普段ならこんな体勢やアングル、絶対に嫌がって、やめてもらえない事にシベリンが諦めるまで時間がかかるのに。左右に軽く割り開いた長い脚にはいくつか打ち身ができているし、ハードな任務だったのだろう。肉体的にも酷く疲れている様子だ。

「…シュア…も、立っていられない…」
快感もだが、それよりも眠気が強いようでまるで酒にでも酔っているような眼で赦してくれと訴えてくる。
「寝たいんだね。いいよ」
眠くて眠くて眠くなってしまったシベリンをこれまでに何度も見ている。こういうときの彼はいつもより抵抗も弱く、羞恥を感じるラインも緩くなるのか反応も緩慢でされるがままで。要するに崩しやすいのだがジョシュア的にはそれは好ましくもあり、しかしつまらないことなのでとても中途半端なところだったがあっさりと退いてシベリンの泡を流してやって。


「んん…」

いつもは必ず一度は自前の寝巻きに着替える場面だが、引っ張り出す元気もなくジョシュアの用意したものを着せられ、髪を拭かれ、ベッドへ放られるとそのままの体勢で眠りに落ちていった。1週間、どんな夜を過ごしていたのか。この様子じゃ殆ど寝なかったんだろうな。
――半端に熱を持ったまま眠ってしまったけど、後でどうなるかな…

ジョシュアがなんのリターンもなく手を引くわけがなく、眠るシベリンの髪を鋤いてやるジョシュアの表情は至極楽しそうだった。


次の日の朝、ジョシュアが起きると隣で長い四肢を丸めて寝ていたシベリンの姿はもうベッドにはなかった。教室にも姿は見当たらず、ルシアンが黒髪の気だるそうな教授にシベリンのことを聞いて「あいつはまた任務だ」と短く吐き捨てられていた。
――忙しいことで。まぁ、日々はイレギュラーな方が退屈はしないな。
意図的に齎(もたら)すアクシデントより、ずっと効果が高い。
シベリンはどうかわからないが、それからまた3日間。ジョシュアはジャムが煮詰まるのを待っているような気分で楽しく過ごした。



1週間ぶりの逢瀬(殆ど睡眠だったが)から逢わずに四日目。ジョシュアがその日の講義を終えて部屋に戻ると、見慣れない服装のシベリンがベッドに上体だけ預けて何が抱き込んでうつ伏せになっていた。眠っているのか背中が緩いリズムで上下して。青白いてろてろとした光沢のあるシャツが入れ込んである黒く長いスラックスの終点からは素足が覗いている。
「シベリン」
抱き込んでいたのはポプリの仕込んであるクッションで、ジョシュアはそれを見て目を丸くする。
淡くラベンダーの香りのするそれをシベリンが最初に見つけたとき、彼は顔をしかめてーーこれは苦手だ…ーーと言ったのを思い出したからだ。
勿論ジョシュアは自分の総てにシベリンを馴致するつもりだったのでポプリを引っ込めたりはしなかったわけだが。

―オレの香りが恋しかったのか―。

眠りを妨げるのを気にもせずシベリンの肩を掴み、うつ伏せをひっくり返すようにしてやると、てろてろのシャツの襟元にはスラックスと同じように黒色をしたナロータイが巻かれている。

「あ…」
声に気づいてシベリンを見遣ると、寝ぼけた目でこちらを見ていた。
「どこ行ってたの?」
「パーティーで、要人の護…っ」
言い終える前に細身のタイを引っ張ってベッドに腰かける自分の膝元にシベリンを寄せると、ジョシュアはにこりとした。
「…っ、借り物だから、離し…」
「着替える前になぜ来たの?」
「………」

確かに…という面持ちから暫し考え込んだあとに僅かにあかくなり、シベリンはタイを引っ張られたまま可能な限り俯いた。

「…わ、からない…」

「本当に?」

聞きはしたがわからないのも無理はないか。内心ジョシュアはそう考えていた。「好きだよ」とあまく囁いたことはなく、していいか聞いてからキスをしたこともなく、どちらかと言えば嫌われてもおかしくないようなこと、をシベリンにはしてきている。いまこの瞬間も。
身体がきもちいいことと、よく眠れることと、意地悪く身体を暴かれること、顔を見たくてたまらなくなることが、ジョシュアのやり方とシベリンの取り方のせいで全く交わらずにそれぞれ伸びていってしまって、そんなバラバラな思いが果たして一本の線になり「好意」に終着するのかと考えると難しい。

普通の恋愛のように口説いていっても靡くか怪しい状態のシベリンに、ジョシュアは乱暴に、そのくせ回り込んで近づいているわけで。

――それでも、確実に「こっち」に来ている。
多く語らないシベリン。でも、思わず部屋へ来てしまう脚が、無意識に合わせてくる瞳が、少し触るとすぐにあつくなる肌が、オレを欲しがってる。ジョシュアには自信があった。

「オレに悪戯されたくて急いで来ちゃったんだね、どうしてあげようか」

タイを引くことでベッドから降ろされ絨毯に這いつくばるような体勢になっているシベリンの頬に唇を寄せ囁く。頬に感じた吐息が時間差で身体に響いたのか、一拍置いてぶるりと身震いした。そんなんじゃない、と言いたげにシベリンは緩く首を振る。

「――オレに欲情してるの、 自覚しようか」
ジョシュアはベッドの端に腰かけたまま、シベリンの首に巻かれているタイをぐいぐい自分の方へ引き寄せると唐突に自分の制服の前を寛げ始めた。

「くちをあけて」

目の前にまだ何の反応も見せていないジョシュアの自身を差し出され、ジョシュアと目前のそれを交互に見るシベリンの口に、タイを握っていない方の手の親指を頬の内側に差し入れてこじあけた。









「ん……っぐ…」
「舌、ちゃんとあてて」
「…っ……ふ」
自分勝手にタイを引っ張られ、腕や脚でうまくバランスを取っていないと息が詰まるような体勢でシベリンはジョシュア自身を口に含まされている。

「んん…っ」
はじめて咥内に迎えたどんどんかたちをかえていくそれが苦しくて堪らない。
「ふ……いい眺め…」
ジョシュアはシベリンの顎に伝う飲み込みきれない唾液をつ、と人差し指で拭うとぺろりと舐めて見せる。いつもと変わらず涼しげな美貌にそぐわない欲に濡れた視線がいたいほど自分に注がれて、一方的に咥えさせられているだけなはずなのに知らぬうちに何処かのスイッチを入れられたかのように身体がちりちりとあつくなってくるのを感じて戸惑ってしまう。
「っあ……ふ…」

自分のままならない呼吸音と咥内からでる水音が鼓膜を炙り、胸の中にちりちりと溜まった熱が身体をめぐり腰におもく集まってくる感触に堪らず身を捩ると、

「きもちいいね」
ふ、と軽く息を吐きながらジョシュアが聞いてくる。

「んん…ん」
首は軽く絞まってるし、咥内はもういっぱいで苦しくて、きもちいいと言うワードには不釣り合いなこの状態でシベリンは確かにあらぬほど昂ってしまっていた。正確にはしばらく会えず中途半端にしか悪戯されていなかったその身体はそもそも顔を会わせる前から自覚なく高まっていたのだが。

「ほら…オレに欲情してる」

言いながらジョシュアが喉奥を己の昂りで緩く突いてくる。息苦しいその律動が都度頭の芯に、背筋にぞくぞくとみだらな愉悦を走らせる。反論したいがなにひとつそれを叶える材料がない。
「うっ……!…んんっ」
タイを引かれ自分勝手な動きで咥内を嬲られ、苦しくて思わず出した片手を取られやわやわと手のひらを数度なぞり握られて、ジョシュアの指先から電流のような快感が伝わり身震いして、ずしりと腰に溜まっていた熱が出口を探して暴れ始める。
――だめだ、だめだだめだ

自分で自分の欲を制御することが出来ずに狼狽えるうちにも、どんどん感覚は高みに押し上げられて。シベリンは上から自分を愉しそうに見下ろしているジョシュアが舌なめずりをするのを見た。
「イキそう?」

――あ、やばい。

瞬間、視界がハレーションを起こしぼわっと滲み膨らんで、はじけて。ちりぢりに散ってしまう。
「んぐ……んんっ…!」
シベリンは自身を触れられても、見られてさえもいなかったのに逐情してしまった。
「ふ…オレの咥えて、そんなになるの?」
本人はガクガク震えながら自分のはしたなさに呆然としているが、予想通りのシベリンの痴態にジョシュアの昂りも頂点を極める。ずっと引いていたタイを離し、繋ぐよう握っていた片手を解くと放った余韻と羞恥に自失しているシベリンの頭を引き寄せて腰を揺らした。
「――!!」

なんの前触れもなく突然咥内に熱を放たれて、独特の芳香と感触にうぐ、とシベリンが呻くがジョシュアは放してやるどころかぐ、と押し付けてくるようで、シベリンはどろりとしたそれを吐き出せず溜めておくことも出来ずに促されるままのみこんでしまうほかなかった。ごくり、と抑えつけたシベリンの喉仏が上下して自分の体液が嚥下されていくさまをまじまじと見てジョシュアは舌を出して自分の唇を薄く舐めた。

――この人が欲しい。

初めて会った日の「欲しい」というノリとは明らかに違って、ああ、オレの胸でたまにちりちりしてるこれは、なんでも望む以上に向こうから手のひらに入ってきていて、これまでに感じる必要がなかったため感じたことがなかったこれは。
知識として知っていたその感情をジョシュアは浅はかで陳腐なものだと思っていた。たった今まで。


「これは…たまらないね…」
すべて飲み込まされ咽返りそうになっているシベリンをやっと解放してやると、俯いてそうひとりごちた。








慣れないものを口に含まされ飲まされて咳き込み疲れ、ぼんやりとベッドの縁に後頭部だけ乗せて絨毯にへたりこんでいるシベリンの顔をジョシュアが覗きこんできた。
「汚しちゃったの、脱ごう」

言うが早いか着ていたものをどんどん脱がされ、勝手に身体を拭かれて、ゆるい寝巻きを着せられ、冷たい水とレモンの入ったグラスを握らされ。
さっきまでのアレが白昼夢だったかのようにジョシュアは健康的に微笑み、やさしく甲斐甲斐しく動き調子が狂わされる。
「精液がついてる」
暖めたタオルで顔を拭いながらジョシュアがはっきりと言って。
整ったパーツしかない顔の整ったくちびるから出るとは思えないような単語をたまに平気で出してくる所もシベリンが困るポイントだ。

「オレが恋しかった?」

やさしい顔でラベンダーの香りのするクッションを背中に差し入れられる。
何を言えばいいのか。何も言えなくてシベリンは黙りっぱなしで。自分があんな発散の仕方をしたのにジョシュアは特に何も言ってこない。
任務で学院を離れている間、全く考えていなかったのか、恋しくなかったのか?と言えばそんなことはなく寧ろ自分でも信じられないほど考えてしまっていた、強引に自分に触れてくる恋人(と言っていいのか)のことを。疲労がかさむほど鋭利になっていく感覚と夢に乱され寝れないまま迎えた他所での朝、ぼんやりと光るカーテンを見ながらジョシュアがいたら眠れたのに…とナチュラルに考えてしまって。好きだとか、嫌いだとか、そういうものよりももっともっと前の…。眠るときは傍にいるということがいつのまにか日常化してしまっていることに気づいて。

深夜でも朝方でも、ドアを一回叩けば自分を迎え入れてくれる年下の、灰髪のデモニック。(ジョシュアの前で一度でも目上らしくあったことなど残念ながらないのだが)
自制して敢えて会わないのと会えないのとでは焦がれ方が大幅に変わってくる。
ぼんやりとジョシュアに依存してしまっていることに気づきたくないのに気づいてしまいそうになっていた危ういところにここ1週間とすこしは長すぎた。

――とにかくかおがみたかった。
かおがみれるだけでいいと思ってたのに。欲情していたなんて、知りたくもなかったことを身体を使って知らされる結果になってしまったし。あらためて考えると…。


――死ぬほど恥ずかしくないか…俺。
半分ほど飲んだレモン水の入ったグラスを握りしめる。

ファーストインパクトが強烈だったのもあってか年下のジョシュアのぶつけてくる欲を全く拒めずいいようにされているのも恥ずかしいが、そんな相手のかおがみたくてたまらず、そんな相手の側でないとよく眠れないなんてー。
眼下でひとりどんどんと表情を変えていくシベリンをジョシュアは不思議そうに黙って眺めている。
――大方自分の崩された矜持について何か考えているんだろうな…ぐちゃぐちゃと考えてまた墓穴を掘ってくれてもいいけど。
弱味につけこんでいくスタイルではあるが、それが好みなだけでシベリンが溌剌としていようが弱っていようが、通常の利発の域を遥かに越したジョシュアにとって攻略難易度は変わらない。

ぐちゃぐちゃと考えてあかくなったり青くなったりしていたシベリンは再び眠気に襲われはじめる。疲れはてたままジョシュアの部屋を訪れて、寝入って起こされるまで僅かしか時間がたっていなかった。
「ねむい…ジョシュア」

溶けそうな金の瞳はさながら崩れたプリンのようで。これくらいの素直さで、ほかのことについても話してくれたらいいのに。ジョシュアは軽く笑んで傾いて零れそうなグラスをシベリンの手から抜き取る。
「寝てて、オレはクリーニングにーー」

行ってくるから、まで言えずにジョシュアはピタリと止まった。止まったというよりそこから先に進めなかった。急に止まったのでグラスから少しばかり水が絨毯に跳ねて散る。
振り返ってみればシベリンが自分の制服の裾を握りしめている。
「どこに…」
「クリーニング屋だよ、シミになる」
やんわりと裾を握りしめる指をほどいて絨毯に投げ出された脚の上に乗せてやると半分ほど眠りに落ちていたのか、目蓋を伏せたままふるふると左右に首をふったが、すぐに小さく寝息が聞こえてきた。

ジョシュアは寝ているシベリンをそのままに寮の部屋の外に出ると夏になる前に足した外からのみ開け閉めすることのできる隠し鍵をかけると廊下へ歩き出した。ふ、と笑って唇を少し噛む。ちりちりと痺れるようなこの胸の内を、ジョシュアは嫌悪感なく寧ろ楽しんでいる。

――このまま連れ去って、オレしか知らない隠れ家でも用意して閉じ込めておきたいくらいだな…そんな必要はどこにもないけれど。

焦らずとも、繋ぎ止めなくても、既にほぼこの手の内にある。
改めてはっきりとシベリンを自分のものにしてしまいたいと感じた途端極端に溢れ出た己の独占欲をあしらう。
力任せに最後まで全て奪ってしまう事が容易だからこそそれを最初に選択肢から外したのだし、じわじわと此方を向かせてあれこれ仕掛けてその都度違う表情を暴く愉しさは前者では味わえなかった。
――もっと違う顔を見るには、身体だけ溶かすだけじゃだめだな。

これまでに見たシベリンの表情のバリエーションはどちらかと言うと負の方面のものが圧倒的に多い。
もっと甘やかな顔や、快感に溺れた顔もみたい。
とりあえずクリーニングの用が済んだらケーキ屋でも覗いてみようか。



――堕とすつもりが、巻き添えを喰らうとはね。


初夏の屋外はそれなりにむし暑いのだがそれをまるで感じていないような涼やかな顔をしたジョシュアは、少し困ったように口元だけで笑みながら夕暮れの雑踏に姿を消した。

 


――I'm falling down――